Hiroshi Sugimoto


風通しのいい愛国心 「苔のむすまで」杉本博司著、新潮社

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週末に大雨がふって、急に秋の気配です。朝、クーラーがいらないだけでなく、
長袖で靴下をはかないと肌寒いほど。
日本も気候不順で大荒れみたいですね。落雷はあなどれないので、気をつけてください。
うちも去年、近所に落雷してスキャナー/プリンターがダメになりました。




あいかわらず日本は靖国問題で揺れているようで、こちらの報道は、もういいかげんなんとか
ならないの?という見方が主流です。もちろん、イラクやイスラエルの戦争も距離的にずっと
日本より近いところで起こっているので、ほんとに少ししか扱われませんが。

宗教を信じる信じないじゃなく、宗教哲学や理念をきちんと勉強する機会が少ないのにも
問題があるように思いますが、どうでしょうか?
あとは日本向けのフィルターがかかっていない世界の報道機関の記事に触れる機会も
劇的に少ないような。中国、韓国だけでなく、世界には日本ではその実体がなかなか伝わりませんが、
残念ながら、反日感情が根強い国はとても多いです。
(英国も実はものすごいんですよ。あ、オランダやフランスも....。もちろん世代によって
変わりますが。)

お正月に買って郵送したのに「苔のむすまで」というタイトルが少し強烈で、
つい読むのを後回しにしていた杉本博司さんの本を先週手に取りました。
杉本さんは、世界的に有名な現代美術家/写真家で、私たちもお正月に、
六本木ヒルズでの大規模な個展を見に行ってきました。

彼はNYと東京をベースに、作品制作だけでなく古美術商の経験も長いようです。
本当は、「1000年前に生まれたかった」と言う現代美術作家。
立教中学では聖歌隊に所属していたのに、大人になって神社の設計までしてしまう
ユニークさ。

同書を読んだ後の単純な感想は、「展覧会に行く前に読みたかった!」
もちろん会場でもボードで説明していましたが、会期終了間際ですごく混んでいたし、
ゆっくり説明を読めなかったです。でも、思い出しながら読んだら、パズルが組み合わさって
スッキリしました。

装丁が非情に美しく、久々に文庫じゃなく、ハードカバーを買ってよかったなあと
思った本です。

そして、驚くほど文章が読みやすく美しい。
優れたクリエイターほど、自分の作品を含め色々な事項をきちんと分かりやすい言葉で
説明できるなあ、という印象は常々ありますが、杉本さんの文章もすばらしいです。
ご自分でもあとがきで、スラスラ楽しく書けて驚いたとありますが、
内容が深い、いい本をたくさん読んだからだけでなく、書こうとしている対象を
きちんと噛み砕いて消化してから書いているような印象を受けます。
編集者が聞いて書いたのではムリそうな、本当に自分のものとして書いていることが
伝わってきます。
私も時々翻訳をするので、すんなり理解できたことは、すっと自分なりの言葉にできるのに、
よくわからない時はなんとなく文を変換するだけだったり、難しめの表現で
お茶を濁してしまう...という感覚はかなりよく分かります。

最後の「苔をむすまで」の章は、昭和天皇の肖像(蝋人形を杉本氏が撮影したもの)
等が入り、富士山の美しさや日本の希有な王朝や2000年の霊気などについて触れていますが、その奥に、幕末、黒船来航のころのアメリカの全権使節ハリスの通訳兼、書記だったオランダ人ヒュースケンの言葉や、彼の生涯についての引用がベースになっています。
日本を愛し、日本に西洋のシステムや重圧が押し寄せることを心から危惧していた当時の「国際人」ヒュースケンは、尊王攘夷派によって江戸で殺されます。29才の若さでした。不条理そのもの。彼の墓は、麻布の光林寺の奥深くにあるそうで、私も杉本さんのように東京に戻ったらお参りしたい気持ちになりました。

「異 邦人の眼」という章では、異と邦人の間にスペースがあるように、いわゆる異邦人というだけでなく異なる日本人(つまり海外に住む日本人でもある杉本氏)の視点等に触れています。
そして、日本美術に造詣の深い欧米人の例をあげ(アンドレ・マルローその他)、単純に日本人だからといっても、古い日本の美術や文化、歴史解釈、建築様式等のすべてに異邦人であることが多いのでは?と書いています。

視野の広い、風通しのいい愛国心。日本人はみんなファナティック(狂信的)なナショナリスト(オランダではそのように習ってきたとオランダ人の友人がいってました)と思われがちで、
日本を弁護すると、「やっぱりナショナリストね」と言われてイライラすることもたまにあるので、
同書は英訳されれば、杉本氏の作品鑑賞や日本文化全体の解釈も、安易に禅のスピリットに結びつけられず、日本に対する視点も深まりそうです。
風通しの良さ、狭義でものをみない、というのが今後とても大事なような気がします。

色々な意味で、読んで嬉しくなった本です。
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by nas-asa | 2006-08-13 17:12 | 本/雑誌 | Trackback | Comments(0)

浅倉協子 & Jaume NASPLE:バルセロナと東京で編集、翻訳、取材、執筆中。好きなもの:建築・デザイン、映画、音楽、夜でも青いバルセロナの空、日本の喫茶店、居酒屋。今食べたいもの:バスクのピンチョス。


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