Haruki Murakami @ Barcelona



村上春樹講演会(その1)

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村上さん講演会情報の続きです。
昨日は、空港まで昔から何かとお世話になっている
建築家の伊東さんのお見送りにいったりと、
なんだかバタバタして更新が遅れました。
(考えてみると、ものすごい1週間でした)





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村上さんの講演会は、
彼が一人でレクチャーするというのではなく、
こちらの有名映画監督イサベル・クシェットさん
(日本ではコイシェですね)がモデレーターとして参加し、
彼女が司会進行をして、村上さんが質問に答えるという形式でした。


上の写真は、会場になった公立図書館が作成した
村上さん講演会のお知らせカード



イサベルさんは、昨年末に日本で菊地凛子さん主演の
映画を撮影したばかりで、こちらでは一気に「日本通」
ということで有名になっています。
まあ、たしかにプロダクションの名前も「ミス・ワサビ」だし、
ひょっとすると、バルセロナの映画人のなかでは
日本のサブカルチャーや現代事情に一番詳しいということになるのかも。
(個人的には、なんだか腑に落ちないところもたくさんあるんですが)



以下、当日の様子を抜粋してお伝えします。



まず、最初に、東京の村上事務所までおしかけて取材したという
文芸評論家のアントニオ・ロサノさんという男性(かなり若い)が、
村上事務所のある青山のこと、事務所には靴を脱いであがったこと・・・
などの思い出や、簡単な村上さんの代表作や経歴についての説明をして、
イサベルさんと村上さんを会場に迎えました。

村上さんは、こちらの出版社主催のレセプションなど
イベントが続いてお疲れ気味で、最初に椅子に座られたときは
なんだか恥ずかしいし、嫌だなあというかんじの表情でした。

使用言語は英語で、イサベルさんも村上さんもそれなりに堪能なんですが、
やっぱり母国語ではないので、噛み合ないところも多少ありました。

村上さんの服装は、紺色と白の縞のポロシャツにグリーンのジャケット、
足下はスニーカー。




★★★★

イサベル:村上さんの文学における「リアルとフィクション」について。

村上:特に意識してシュールなものを書くのでなく、
自分が見えるものを書くだけです。

イサベル:作家になったきっかけは?

村上:野球場でビール(多分キリン)を飲みながらふと思ったので、
79年の4月の午後。だいたい1時15分頃ですね。そのあと、小説を書いて
出版社に送ったら出版され、文学賞を受賞しました。

(会場笑)

イサベル:どうして、その瞬間の時間までわかるんですか?

村上:野球は大抵1時に始まるから。

イサベル:飛行機のなかでお仕事されたりしますか?

村上:それは無理ですね。だいたい飛行機で仕事している人ってそういうフリを
してるだけなんじゃ?

イサベル:村上さんの本は、なんとなく飛行機のなかで読むといい(現実の世界から
浮遊している地点という意味で)気がしますが。

村上:え、そうですか?

イサベル:作家の方は睡眠障害に陥る(不眠症か今度は寝過ぎ)
人が多いですけれど、村上さんはだいじょうぶですか?

村上:それはないですね。いつも10時頃に寝るんだけど、
横になってすぐに眠れます。でも、義理の兄弟には負けてしまって、
前に同じ部屋で寝た時、彼の方が数分早く寝てました。

イサベル:え、義理のご兄弟と時々一緒に寝るんですか?

(注:このとき、彼女の英語がずっとアメリカ英語なのに、
Oftenをオフトゥンとイギリス英語っぽく、つまりちょっとアカデミックに
発音したせいで、村上さん聴き取れず)


村上: え? おふとん?

(個人的には、このあとイサベルさんに他の言い回しで質問しなおして
もらいたかったと思いました。母国語じゃないからしょうがないにしても)

イサベル:村上さんの「ノルウェイの森」の映画化が決まって、菊地凛子さんが
主演だそうですね。

村上:はい。菊地さんはいい女優さんだと思いますか?

イサベル:ものすごくいい女優さんです! だから、きっと素晴らしいミドリを
演じるはずですよ。

ところで、お書きになった作品を全くお読みにならない、というのは本当ですか?

村上:ええ。書いたものは、全く読み返しません。

イサベル:どうして、作品が世界中で売れたと思いますか?

村上:すごくつまらない答えで申し訳ないけれど、ストーリーが面白ければ、
読みたい人はいるんじゃないでしょうか?

イサベル:私は、それについて自分なりにハッキリとした印象を持ってます。
村上さんの多くの作品には、
周りに大勢の人に囲まれてるはずなのに孤独だったり、
豊かな時代に生きているはずなのに先行きがものすごく不安だったり・・・
といった、世界共通の「現代人が持っている喪失感や孤独感」が描かれていて、
そういう自分と近い登場人物やストーリが醸し出す世界に寄り添いたい、
と思う読者が多いように思います。

(ここまでは、イサベルさん、けっこうシャープかも?と思いました)

村上:ほんとに、スペインだけでも、
カタラン語、スペイン語、ガリシア語、バスク語
になってるわけで、アイスランドでも翻訳されているんですよね。
前にアイスランドにいったとき、
あちこち移動しても人っ子一人見かけないぐらい閑散としていて
一体住んでる人っているのか?というかんじだったのに、
ちゃんと自分の本が翻訳されていてビックリしました。

イサベル:91年から95年は、アメリカに滞在されましたね?

村上:当時、日本で本が売れだすと文壇や批評家からすごく叩かれ、
なんだか日本にいるのが嫌になったというのもあります。

でも、日本では立て続けにサリン事件があったり、神戸の地震があったり。
バブルもはじけて、土台から揺るがされているように見えました。
それに、あの地震のときは、両親が神戸に住んでいて本当に大変だったんです。
それで、早く自分の国に帰って何かしたい!と強く思いました。

イサベル:それで、「アンダーグラウンド」というノンフィクションを
お書きになったわけですね。あの本には、日本人の普通の人たちの気持ちや、
生活感覚が溢れていて、私も日本や日本人のことをただエキゾチック!
とか特殊だと決めつけている人たちに会うたびに、ぜひ読んでみるよう薦めています。

村上:あのときまず60人以上のサリン事件の被害者を1年間かけて取材したのですが、
一人一人のライフスタイルや事件の感想は、一見凡庸で退屈に聴こえることがあっても、
インタビューをすすめ、大勢の人々の声が束になってまとまってくると
大きな叫びとして自分の琴線に響いてきました。


よく日本人らしさとは何か?とか、
日本の作家とは何か?と聞かれることが多いのですが、
世界の人々に、日本にも色々な人がいて、日本の作家やクリエイエターにも
色々なタイプがあるということをアピールしたい。
それが作家としての自分の仕事だと思います。



イサベル:翻訳もよくされていますね?

村上:好きな作家の本を訳すのは楽しいし、とても勉強になります。
最近では、チャンドラーやフィッツジェラルドをやりました。

「ロング・グッドバイ」や「グレート・ギャツビー」
は、僕にとってバイブルです。
だから、あまりにも大事な本なので、翻訳しよう!と決心するまで
28年ぐらいかかりました。


イサベル:走ることと書くことについて。

村上:1日、書く仕事をしなくても全然ギルティーな気分を感じないけれど、
走らなかったり泳がないと、なんだかいてもたってもいられなくなります。

でも、走ることは書くことに似ています。

両方とも自分自身一人っきりでやらなくてはならない。
しかも長距離です。

あ、そうそう100キロマラソンっていうのに挑戦したことがあって、
あれはもうやりたくないですね(笑)

それはともかく、自分の小説や文学について語るより、
走ることについて話すほうが楽だし、好きです。



★★★★★


と、長くなったので、後半に続きます。


村上さんの英語は、日本人として堪能なほうかもしれませんが、
やっぱり母国語ではないわけで、
ご自身でももどかしい面も多々あったと思います。

でも、日本では絶対に講演会や朗読会、サイン会などのイベントはやらない、
マスコミの取材も極力さける(テレビも出ない)ということを考えると、
非常に貴重な時間でした。
(神戸だけ特例で朗読会をされたそうですが)


そうそう、神戸出身バルセロナ在住の友人もこの講演会に来たい!
といってたんですが、仕事で間に合わず。整理券方式で厳重に別の人が
多めに席取りできないようにコントロールしてたので、難しかったです。
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Commented by kabukimama at 2009-03-22 02:22
浅倉さん(前回、漢字変換を間違ってましたね。すみません。)、どうもありがとうございます。
講演会の状況、よ~くわかります。
スペイン人の生徒さんが不満に思っていたのは、彼が聞きたい答えが村上さんから聞けなかったからだと思います。でも、それって読者の思い込みであって、俳句なんかと同じで、読んだ人が自由に想像すればいいし、作家の意図なんか聞かないほうがいいですよね。
日本人(私)なら、そう思えますが。

英語からスペイン語に訳すんだったら、日本語からスペイン語に通訳してくれたほうがよかったですね。
後半、楽しみにしています。
Commented by nas-asa at 2009-03-22 03:15
今回のイベントは、講演会というよりトークショーというかんじで、主役は村上さんとイサベル・クシェットさんだったので、詳しそうだった文芸評論家の男性は、最後に1つだけ村上さんに質問しただけでしたよ。

でも、その生徒さんは、どんな答えを求めていたんでしょうね??文学っていうのは、作家本人も無意識で
書いて、勝手に登場人物が動くような小説が優れているとよく言われてますよね?
私は、作家が読者の読み方を限定するようなことをいうのはヤボだと思うので、スペイン人(カタラン)でも文学(特に外国文学)や村上さんが好きな人はあのトークショーで怒ったりしないと思うんですが・・・。
それに、無料のイベントで、純文学の真髄に触れるなんて
難しいし(笑)

それから、言語は英語から同時通訳でカタランでした。
(公立図書館なので)日本語からカタランにできる
通訳の人ってまだ少ないですよね。言語の問題じゃなく、もしかしたらモデレーターが翻訳者(村上さんの)とかだったら、ちょっと違った展開になったのでは?という気はします。
Commented by granollers at 2009-03-22 03:46
私もこの講演会行きたかったのですが、当日の朝、ぎっくり腰やっちゃって(苦笑)いけなかったんですよ。でも、英語からカタランの訳じゃ、行っても分からなかったと思うので、こうして日本語にしてもらうと助かります!
Commented by nas-asa at 2009-03-22 20:07
★granollersさま
ギックリ腰だいじょうぶですか?
私は2度、ひどい腰痛にはなったことがあり、歩くのもクシャミも痛かったので、ぜひお大事に!ほんとに電話に出るとか台所でなど、些細なことでなるそうですね。

で、英語といっても、ネイティブの人たちの会話じゃないから、考えながらゆっくり話されていたので、日本人には
わかりやすかったですよ。
カタランの同時通訳ははじめからきいてなかったので、どのぐらいちゃんと訳してたのかはわかりません。

異文化交流ってちょっとたいへんですね。
とはいえ、個人的にはとても楽しかったです!
by nas-asa | 2009-03-21 04:45 | カタルーニヤ | Trackback | Comments(4)

浅倉協子 & Jaume NASPLE:バルセロナと東京で編集、翻訳、取材、執筆中。好きなもの:建築・デザイン、映画、音楽、夜でも青いバルセロナの空、日本の喫茶店、居酒屋。今食べたいもの:バスクのピンチョス。


by nas-asa