EL VALOR DE LA PARAULA


講演会その2

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写真は、よく行くLa Centralという書店のディスプレイ。
3/21にいくつかの書店を回ったところ、どこも村上作品が平積み。
猫の表紙は「海辺のカフカ」で、白地のほうがカタラン語バージョン。
発行部数はスペイン語(カスティリャーノ)より少ないはずですが、
こちらのほうがデザインがいいような?





3/22付けの全国紙LA VANGUARDIAには、読者からのこんな手紙が・・・。





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「公立図書館のディレクター様。
僕は村上春樹さんの講演が見られませんでした」


というタイトル。

彼もがんばって並んだのに、結局入れなかったそうで、
どうしてもっと広い会場で開催しなかったのか?
という(軽い抗議)内容です。

それに対して下段は、公立図書館全体のディレクターからの返事。




「それは作家の方(村上さん)の意向です」


もっと広い場所のほうがいいというのは、主催者側も図書館側も思っていたことですが、
村上さんができれば小さいホールで、観客(つまり読者たち)を近くに感じられるような
空間でやりたいという強い意向があったため、ああいうかたちになりました。
申し訳ありません。

とのこと。



たしかに数千人規模のボールでやっても、
時間帯によっては十分に動員できたはずですが、
やっぱり狭い場所を希望されていたんですね。


というわけで、その小さい空間でのレクチャー
(トークショーという雰囲気に近いかもしれません)の様子、
続けます。



ちなみに、会場では写真撮影も録音も禁止されていたので、
地元のジャーナリストの人たちもメモをとっているだけでした。
私も最初はレコーダーをもっていこうかと思ったけれど、
変な動きをして退場になるぐらいなら、しっかり聞いたほうがいいと思って、
メモだけとりました。だから、抜けてるところもあるのであしからず。



★★★★



イサベル:村上さんには、特に好きな文学上のキャラクター(主人公)ってありますか?
(イサベルさん、会場のほうを見て、「こういうノリの質問でいいわよね?」とスペイン語で
観客に問いかける。でも有無を言わせない雰囲気)

村上:特に好きなのは、カラマーゾフの兄弟の「スメルジャコフ」ですね。
ジャズ・バーの名前にスメルジャコフってつけたくらいですよ。
(注:ジャズ・バーじゃなくて、もしかして他のクラブですよね?)

チャンドラーのマーロウも好きだし、虫、特にスパイダーなんかも好きです。
あの人は、虫の描写に2頁ぐらい裂いてますよね。


イサベル:人生で一番惨めだったことは? (miserable moment)

村上:え? miserable? う〜ん。
大昔、つきあっていた女の子がいたわけですが、
プラトニックで終わってしまった人たちの何人かと、
もっと深い関係になっておけば良かったということかな?

イサベル:(またスペイン語で、観客に向かって、この会場に奥さんいらしてるんですよ!)
つまり、惜しかったなとちょっとフラストレーションがたまってるわけですね?(笑)
その他には?

村上:惨めなことは、もっと色々あるけれど、ここではちょっと言いたくないかな。


イサベル:そういえば、村上さんの作品で、サーフィンで息子さんをなくした母親の話は
いいですね!「ハナレイベイ」でしたっけ。あれは、「バースディストーリーズ」の一部?

村上:ちがいます。「東京奇譚集」ですね。トニー滝谷を監督してくださった市川準監督も
映画化に興味をもっていたんですけれど、昨年亡くなってしまって。



イサベル:では、それぞれの作品を書くきっかけについて伺いたいと思います。
「ねじ巻き鳥クロニクル」はどうだったんですか?

村上:2つの起点があり、最初に書いて3年後にもう少し付け足すという形をとっています。
ねじ巻き鳥というめずらしい鳥のインスピレーションは、自宅に変な鳥が飛んで来るといっていた
アメリカ人の友人の話がもとになっています。

イサベル:「国境の南 太陽の西」は?

村上:これはとても変わった経緯でできた作品です。
僕の作品の最初の読者は家内ですが、「ねじ巻き鳥クロニクル」を書き上げて
読んでもらったところ、長過ぎる!というので、いくつかの章をカットし
それを後からまとめて、さらに加筆訂正してものがこの作品です。


イサベル:「ノルウェイの森」は?

村上:短編を先に書いて、それを引き延ばしました。

イサベル:「スプートニク」は?

村上:一章書いて引き出しにしまって忘れていたのですが、数年後に発見して
うん、いけそうかな?と思って、もう少し足してみようと思いました。
すごいシンプルでしょ?

イサベル:え〜そうですね(笑)でも、最初のひらめきはどこからくるんですか?

村上:それは様々です。「海辺のカフカ」のときは、まずタイトルが浮かびました。
その反対が「ノルウェイの森」で、なかなかタイトルが決まらず、
とりあえずストーリーを書き上げて、あとからタイトルを決めました。

イサベル:「アフターダーク」は?

村上:「スプートニク」と同じようなかんじです。
夜中のファミレス、あ、イタリアじゃなくてスペインにはデニーズとか
ファミレスはないんでしたっけ?

イサベル:幸いなことに(Thanks god)ないですね。
(注:彼女がなんでわざわざThanks godというのかわからず、ちょっとムッとしました。
ファミレスはださいように見えるんでしょうね)

村上:デニーズで夜仕事していて、急に頭のなかに映像が浮かびました。


イサベル:作品を書くためにリサーチはされますか?

村上:ほとんどといっていいほどしません。
(注;あとから事実関係を確認するために、四国や中国に行かれてますよね?)

あ、「アフターダーク」のときだけ、何しろ僕は朝型なので、
夜の都会のリサーチをしました。ひとりで渋谷にいったんですけれど、
すごい怖かったなあ〜。でも12時には家に戻ってました(会場笑)


イサベル:ラブホテルとかもいかれましたか?

村上:そうですね。名古屋のラブホテルにいきました。担当編集者といっしょに
いったんですけど、メゾネットっていうんでしょうか高いところから小さなプールに
滑り台がついている部屋がありました。どうやって使うんでしょうね?

名古屋ってすごいですよ。

イサベル:そのホテルの住所教えてもらえますか?(笑)

でも、東京もけっこうすごいですね。

村上:いやいや。名古屋はもっとワイルドです。
トヨタの本場だから、ポルシェやフェラーリに乗っている人もいるけれど、
国産はみんなトヨタなんです。タクシーがたまに日産だったりすると、
お客さんのほうが嫌がって乗らなかったりするらしいですよ。

あれ、僕、なんでこんな話してるんだろ?



イサベル:新作の「1Q84」について教えてください。

村上:これもまずタイトルから決めました。Qは、日本語で9と同じ発音なので、
1984と読むことができると同時に、QはquestionのQともいえます。
ジョージ・オーウェルが昔「1984」を書いたときは、近未来として書いたわけですが、
僕は近い過去、暗い過去などというように別の視点でアプローチしています。



イサベル:いつものようにペシミスティック(悲観的)なんですか?

村上:え? ペシミスティックじゃないですよ。

どんなに暗いことを書くために深い地点に潜ったとしても、
プロの作家ならまたもとの地点に戻ってこれると思っています。
そういう意味で、僕は自分自身を信頼しているので、
いつもオプティミスティック(楽観的)です。


(ここで、やっと文芸評論家のアントニオ・ロサーノが質問)


ロサーノ:以前、レイモンド・カーヴァーさんにインタビューされたそうですね?

村上:電話をかけたら、「ジョギングにつきあうならいいよ」ということで
一緒にセントラルパークを走りながら質問させてもらいました。
けっこう息切れしましたね。

でも、亡くなってから遺族の方に、形見わけとしてジャケットをいただいたんですよ。

ロサーノ:イサベルさんが、もし村上作品を映画化するとしたらどの作品が希望ですか?
あ、村上さんは彼女の作品はご覧になってますか?

村上:ええ、3作品見てます。

イサベル:そうでうね。
一度、「ノルウェイの森」を薦められたことがあったのですが、
諸事情で無理でしたので、もし私ができるのなら「ハナレイベイ」がいいです。

最近、サーフィンでじゃないけれど、オートバイの事故で
息子さんを亡くした知人がいたり、あの作品は多くの人の癒しになるように思います。


そろそろ、時間ですね。


村上:会場の方から質問があれば。

イギリス人らしき観客の男性:「海辺のカフカ」のように、タイトルに有名な作家の名前を
引用されるということは、今後もあるのでしょうか?

村上:それは、まったく考えていなかったなあ。まだわかりません。



★★★★


このあと、村上さんはもっと質問に答えてもいい、
というそぶりをみせていらっしゃいましたが、
サイン会へと突入。

「本を持っている方全員、一列に並んでください!」
という係の方のアナウンスに、私たちはビックリしつつも
「やったね!」と小さくガッツポーズ。

ホールに200人、別室でモニターで見た人が50人ぐらいの参加者で、
はじめからサインは無理だろうとあきらめてたので。
日本人は、そのうち5人ぐらいだったような(関係者のぞく)


そのあと、壇上にテーブルがセットされ、ひとりづつ舞台にあがって
本にサインしてもらいました。(なんだか卒業式みたいで、緊張しました)

村上さんは、ひとりひとりに「Hola!」と挨拶。


下はその貴重なサイン!





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「意味がなければスウィングはない」に書いていただきました。
(遠藤周作さん、アントニオ・タブッキさんのサイン本と一緒に家宝にします)




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「ねじ巻き鳥クロニクル、スペイン語版」へのサイン。
Naspleは、ずーずーしく名前まで書いてもらいました。
あとで他の人のも見せてもらったら、ちゃんと名前を(ローマ字で)
書いてもらってる人が多かったようです。



★★★★

以下雑感。


村上さんのバルセロナでの講演会を10年以上待ち望んでいたので、
(自分たちで企画したいぐらいでした)
何はともあれ、生のお姿が拝見できて嬉しかったです。


もと大手出版社の編集者で、有名人に慣れているはずのビビビも、
すっかり緊張して、サインしてもらってるあいだ黙ったままでした。




欲を言えば、日本語で朗読していただくとか、
少しだけでも日本語で話していただけたらさらによかったし、
日本人としては「エルサレム賞」のこと(例の卵と壁の話)も伺いたかったです。
でも、もしかすると、政治的な話はなしね、と出版社の意向があったのかも。



あとは、クシェット監督もいいんだけれど、
バルセロナでの他の小説家のこういったイベントでは、
(アントニオ・タブッキさんと、高行健さんぐらいしかいったことがないですが)
それぞれの翻訳者が質問して進行する場合が多いので、
そのほうがもう少し深く突っ込めたか〜もしれません。

また、会場にいた読者からの質問もあと3つぐらい許してれば、
面白かったのに・・・という気もします。


といっても、今回は、村上さんの明るい面がすごく伝わって来て
楽しい時間が過ごせました。

外国語でコミュニケートすると、伝わりにくいどころか
まず欠けてしまうのが「ユーモアのセンス」な場合が多いので、
それを考えたら、会場が明るい笑いに包まれるなんてすごいことかも。



実を言うと、村上さんは世界中で引っ張りだこで、
バルセロナで講演されるなんていうこんな機会はめったにないので、
あらかじめ日本の知人に協力してもらって取材の申し込みをしていました。



でも、今回はスペインの読者と触れ合うこと
(版元の出版社関係のイベントも含め)が滞在の目的なので、
日本向けメディアの取材は無理・・・ということで、
ご丁寧なお断りのメールを事務所からいただいていました。

さらに、時々仕事しているこちらのテレビ局からも、
主催者側に打診してもらったんですが、
「地元のメディアでもテレビはダメ」
ということで、ことごとく断念。

当日、テレビ局もいくつか来てたようですが、行列と開演前の様子だけ
撮影してました。・・・と、そんな事情もあり、がんばって並んだので、
整理券番号の1番と2番をゲット!(人生で初めての経験かも)


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(写真は並んでいたときの様子)

ビビビがエンカンツ(蚤の市)で買った小さい椅子を持って来てくれて、
交替で座ったり、Naspleは座って翻訳の仕事をしてました。

でも、文字通り並んだのは2時間未満で、
何かと行列する日本と比べたら楽勝なような気がするし、
ロケや撮影の仕事の待ち時間も長いので。

天気が良くて気持ちが良かったです。


そうそう、行列する前に、図書館内部のbarでお茶を飲んでいたら、
村上さんの本を売る準備をしていたbarのオーナーが話しかけてきて、

「自分も作家か文化人だったら、マスコミを避けたい気持ちわかるなあ!」

「そういえば、村上さんって、昔barをやってたんでしょ? 
俺もいつか小説かけるかな(笑)」

なんて言ってたのが面白かったです。彼はbarの他に書店もやってるそうです。

ついでに、本を販売するために出版社から送られて来たポスターを
一枚わけてくださいました。


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これは、スペイン語版のほうをだしているトゥスケッツ社のもの。

細長くて上のほうにもっと本の写真が入ってるんですが、
私が驚いたのが下のコラージュ。

村上さんの写真の隣にある建物は、もしかして「新宿高島屋?!」
タイムズスクエアーっていったい??

日本ということを強調したかったんでしょうね。



富士山や東京タワー、渋谷のスクランブル交差点じゃなんだし、
秋葉だとまずいかな?などと、たぶん、色々考えたんでしょう。

いちおう日本の建物をつかってるだけえらいのですが、
(アジアが見事にゴチャゴチャになってる人もいるから)
ーーーーー微妙です。
スペインの作家とエル・コルテ(こちらのデパート)をコラージュするかな?

あと、このトゥスケッツ社と建築家のオスカー・トゥスケッツさんは
親戚なんでしょうか? (きっと身内ですね)





村上さんもハードスケジュールで(バルセロナの前は、
サンティアゴ・デ・コンポステーラに滞在されてました)
大変だったと思いますが、バルセロネッタでジョギングされたり、
ピカソ美術館、グエル公園などに行かれたそうです。

あと、サンアントニ市場のレコード市で、
長年探していたジャズのレコードを2枚みつけて購入された
というのも新聞記事で読みました。


いずれにしても、

村上さんはバルセロナを気にいってくださったのでしょうか??
これに懲りずに、またぜひバルセロナにお越しいただきたいです(切望)



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Commented by kabukimama at 2009-03-22 22:16
完璧な対談レポートありがとうございます。
読ませていただいていて気づいたのですが、たぶん英語からカタラン語に訳していた内容に間違いがあったのではないかと思います。(生徒さんが言っていたことと内容が違いました。)
英語ができるカタラン人通訳でも同時通訳は難しいですからね。
生徒さんには今度のクラスで、このレポートを翻訳してあげます。個人的にもこのまま彼が誤解しているのは残念ですから。

ちなみにスペイン語版の翻訳者Loudes Portaさんは村上さんにあまり会いたくなかったようです。

Commented by nas-asa at 2009-03-23 00:13
★Kabukimamaさん
その生徒さんはなんといってたんでしょうか?
逆に気になりますね。でも、英語ができる人でもこういう文学についての同時通訳の場合、予備知識がないと難しいかも。とはいえ、私の訳したものをまたさらにスペイン語
にしても誤解はとけないんじゃ?
もっとエッセイなどを気軽に読めればいいんですけどね。
あと、日本にたいする思い込みっていうのがすごく強い人いますよね。私もこちらで一緒に座禅にいこうといわれて、断るのがたいへんだった人なら身近にいます。けっこうインテリの文化人ですよ。日本語の先生もたいへんですね。

ところで、Portaさんは何であまり会いたくなかったんですか?
自分の意志で翻訳したわけじゃないのでしょうか?
(出版社の意向でという場合もあるので)
カタランバージョンの方は、日本語から訳したのかどうかはわからないけれど、彼はほんとに村上ファンというかんじの大学の先生でした。(レクチャーをきいたことがあるので)私は、初期のアメリカ人の翻訳家(ボヘミアンなほう?)とは面識があります。といっても、ここ10年以上あってないけれど。
Commented by michiko@ブログなし at 2009-03-28 01:44 x
お久しぶりです。こんにちは~!

私、この時期、仕事で2週間くらい、ずっとマドリードに行っていて全然、ニュースとかもチェックしていなくて、帰ってきたら夫が開口一番に、michikoがいない間にmurakamiが来て講演していったよ~、と一言。は?もう、ショック大きすぎて立ち直れなかったです(涙)けど、協子さんのこのブログでちょっと救われました。ありがとう~~~!!!これ、全部、メモったのってすごい!私はあまり会いたいなーという欲求が著名人に対してない方なんですが、春樹様だけは別なので、一生に一度の会える機会を失ってしまった気がしてしまって悲しい・・・。
Commented at 2009-03-28 01:50 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by nas-asa at 2009-03-28 09:06
★michikoさま
そうだったんですか〜。残念でしたね。
でも、なんとなく(なんとなくですけれど)
村上さんはまたバルセロナに来てくれそうな気がします。
私も故人は別として、すごく会いたい作家って
他にイタリアのタブッキさんぐらいしかいないんですよ。
ところで、レイコさんに1月末にあったとき、
友達はレリダに引っ越したっていってたんですよ。
それって、michikoさんのことだったんですね〜。
セビリヤのKさんは、マドリのカナさんの紹介で
こないだ初めてお会いしたばかりです。
で、いきなり色々お世話になりました。
やっぱり何かのご縁ですね。
Commented by michiko at 2009-03-29 02:13 x
レリダじゃなくて、gelidaなんですけど(苦笑)、カタルーニャの人にもわかりにくいみたいで、よく間違えられます。そんなに遠くなくて、サンツから30分でつきますから、近いうちに遊びに来てくださいね~♪
by nas-asa | 2009-03-22 06:25 | カタルーニヤ | Trackback | Comments(6)

浅倉協子 & Jaume NASPLE:バルセロナと東京で編集、翻訳、取材、執筆中。好きなもの:建築・デザイン、映画、音楽、夜でも青いバルセロナの空、日本の喫茶店、居酒屋。今食べたいもの:バスクのピンチョス。


by nas-asa